BRICS首脳会議

AAI Fundさん
AAI Fundさん


ブラジル、ロシア、インド、中国に南アフリカを加えた新興5カ国(BRICS)の首脳会議が中国海南省で開催された。3年前に始まった首脳会議はこれで3回目だが、経済力を背景に発言力を強める中国が議長国となった今年は、国際社会の関心を集めた。ただ、BRICSの意義をめぐっては各メディアで見解が大きく分かれている。





 ▼コメルサント(ロシア)


露は懸け橋になれるか


 モスクワ国立国際関係大学の中国専門家、ルキン教授は、15日付の露コメルサント紙に掲載された寄稿で、「ロシアはG8(主要8カ国)とBRICSの双方に加わっている唯一の国であり、欧米諸国との関係も建設的に発展している」とした上で、反欧米ではなく、「西側と、非西側との懸け橋となりうる」ロシアの役割に注目した。

 金融危機などで激変する国際情勢の下、ロシアに新たな舞台が回ってきたという見方は理解できる。

 ただ、中露の経済力の格差は明らかで、同紙はそれを同じページのガブエフ記者の中国発の記事で示している。記事は、中国が首脳会議で他の4カ国に100億元(約1260億円)の融資を表明したことを、「人民元の国際的影響力を強化する戦略」と位置づけた。

 ロシアでも、極東において「長大な中露国境沿いの貿易は、すでに中国商人に席巻されてしまった」(ハバロフスクの大学教授)との見方も聞かれるほど、対中警戒感は強まっている。

記事によると、メドベージェフ露大統領は首脳会議に先立ち、中国とインドの両首脳と原発の取引について協議したようだ。中国にばかりスポットが当たるBRICSの場で、せめて商圏を維持しようという思いがにじむ。

 5日間に及んだ中国訪問を終えて訪れたシベリア・イルクーツクで、大統領は「中華料理はおいしかったが、ロシア料理が恋しくなった」と思わずもらした。

 まさか、中国人の底なしの“食欲”に参ってしまったわけではないだろうが、中国主役のBRICS首脳会議の場で、存在感を十分にアピールできなかった苦しい胸の内をちらりとのぞかせたような気がする。(モスクワ 佐藤貴生)





 ▼環球時報(中国)


先進国への対抗軸アピール


 中国共産党の機関紙、人民日報の傘下にある環球時報は、BRICS首脳会議の翌15日付紙面で大々的に取り上げ、中国外交の成果を内外にアピールした。

 1面トップでは、リビアでの武力行使反対と国際金融システム改革要求で「5カ国が一致」とする見出しを掲げている。胡錦濤国家主席を中心にした5人の首脳の集合写真を使い、中国が主導権を握った形で、先進国に対する政治的、経済的な「対抗軸」を、BRICSとして打ち出したことを印象づけようとした。

 一方、論評記事では、BRICSの成長性の高さを自負しつつ、あくまで新興国として解決すべき課題が山積していると指摘した。

「BRICSが国家発展で直面する10の関門」と題した同記事は、新興国が解決すべき課題として、(1)官僚主義など、成長スピードを阻害する政府の管理面の問題(2)BRICS国家間の不毛な競争が引き起こす問題(3)収入の再分配に関する不公平さや貧困問題-などを列挙している。

 しかし、こうした問題の指摘も、自己の反省に立った前向きの改善姿勢というよりは、国際社会の枠組みとは異質な、独自路線の展開をめざす「宣言」と読み解いた方が分かりやすいかもしれない。

 たとえば同紙は、台頭する貿易保護主義や国際経済環境の不安定さなどを問題視し、BRICSの輸出市場に不利益をもたらすと指摘する。言外に、国際秩序の現実が、BRICSと利害対立している部分があるとのニュアンスがうかがえる。

 今回はBRICSを利用したい中国のホンネが透けて見えたが、次の議長国はインドだ。来年のBRICS首脳会議で、中国はどんな策を弄して会議を主導しようとするのだろうか。(上海 河崎真澄)





 ▼インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(国際紙)


新興国には不要な存在だ


 21日付の国際紙、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは、「BRICSという集まり」と題するフィリップ・バウリング氏のコラムを掲載。同氏はBRICSについて、参加国間で衝突する利害関係を調整することができず、経済規模もバラバラである事実などを挙げ、BRICS首脳会議を“不要”だとバッサリ切り捨てた。

同氏はコラムの中で、インドネシアなど他の新興経済国を含まないBRICSとは「米国への敵意以外何の共通の議題を持たない国々の一覧表なのか」と、その集合体の定義に疑問を投げかける。そして、中国を除くBRICS参加4カ国の最大の特徴は「中国への原材料輸出国である点だ」と指摘。それが、中国をBRICSにおける「疑いのないリーダーに押し上げている」と分析した。

 その結果、かつての大国ロシアは、BRICSにおいて中国の「脇役を務めている」との見方を示し、「中国以外の国々は、一度立ち止まって、中国との関係性を熟考した方がよい」と皮肉交じりに助言した。

 さらに、4カ国は中国に原材料を供給する一方で、中国製品の輸入国にもなっているとし、ブラジルを除き、各国は中国との間で膨大な貿易赤字を抱えている事実を指摘。その要因の一つとされる、中国による人民元相場の操作などに言及しつつ、「(BRICSが)協調していると政治的アピールをしたいがために、各国は本来行うべき通貨問題を指摘できないでいる」と批判した。

 結局、BRICS参加国の利害は、「BRICSではなく、G20(20カ国・地域)の会議の場での方がよほど包括的に表明されている」として、BRICS首脳会議は「新興国にとり不要な存在だ」と断じた。
AAI Fundさんのブログ一覧