知ってもらいたい「おびえてはならない」

　存在は知っていても、普段の生活で実際に接触する機会はほとんどない暴力団。その暴力団について基礎から解説したノンフィクションライター、溝口敦さん（６９）の『暴力団』（新潮新書）が売れ行きを伸ばしている。

　９月１６日の発売から２カ月足らずで９刷、２１万部。「たまたま、島田紳助さんの引退会見（８月２３日）、東京都暴力団排除条例の施行（１０月１日）、ＮＨＫ紅白歌合戦の人選が間近であるなど、暴力団に注目が集まる時期が続いた。時宜にかなったことが大きい」。溝口さんはこう理由を分析する。

　まさに絶好の時期に発売されたわけだが、出版化の話は１年ほど前から進んでいた。「誰でも分かる講演のように書いていただきたいと依頼しました」と新潮新書編集部の丸山秀樹さんは話す。

　時期に恵まれたことはあったにせよ、多くの読者を獲得できたのは書籍の実力があってこそ。「です」「ます」調で文章を統一し、「暴力団とは何か」から収入源、人間関係までやさしく解説した。

　長年暴力団の取材を続けてきた溝口さんだけに、ただの入門書に終わらず、最新情勢も盛り込んだ。海外の暴力組織、日本国内で近年台頭している「半グレ集団」についても紙幅を割いた。

　最終章では暴力団への対処法についてまとめた。平成２年に山口組を題材にした著書を出版後、暴漢に刺された溝口さんだが、「こうしてしゃべっているよということを（暴力団に）見せつけることで、暴力団の暴力は通じないということを示すことが被害者の責任だと思っている」。


本書を通じて読者に知ってもらいたいのも「暴力団におびえてはならないこと」。本作のヒットは、体を張った溝口さんのメッセージが読者に伝わったという何よりの証しなのだろう。








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