【話題の本】『陽だまりの彼女』越谷オサム著

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「3・11後」の心に響く感涙のラスト

 愛らしい表紙イラストと切ないストーリーが、恋愛小説とは無縁だった男性読者を掘り起こしている。意外にも40代以上のファンが多く、版元には「昔を思いだした」「最後は泣いた」なんて率直な感想が寄せられているらしい。

 昨年6月に初版2万部で文庫化され、現在16刷23万6千部。出足から好調だったが、昨年11月に〈女子が男子に読んでほしい恋愛小説 No.1〉と記した大きめの帯を付けてから増刷ペースが加速した。「『こんなふうに愛されてみたい』と話す女性が周囲に結構多かった(笑)。男性のすごくピュアな部分が描かれているし、主人公の女の子も魅力的。男女がともにキュンキュンできる点が受けているのでは」と、新潮文庫編集部の宮川直実さんは話す。

 語り手の「僕」奥田浩介(こうすけ)は、交通広告代理店に勤める25歳。ある日、得意先のランジェリー・メーカーとの商談の席で幼なじみの渡来真緒(わたらい・まお)と10年ぶりに再会する。中学時代は「学年有数のバカ」で、いつもいじめられていた真緒は、仕事もできる、いい女に変貌していた。2人はやがて付き合い始めるが、真緒には浩介に打ち明けられない秘密があって…。

 〈完全無欠の恋愛小説〉という宣伝文句通り、2人の周囲には恋敵らしき人物も登場しない。駆け引きなしでいつも直球勝負の2人の言動は、世界を丸ごと肯定するような明るさに満ちていて、人を好きになることのすばらしさを教えてくれる。一方、物語は真緒の秘密を牽引(けんいん)力に、意外な方向へと進んでいき、感涙のラストに至る。

 感傷にふける甘い恋愛小説なんて読めなくなった-。東日本大震災後、そんな声をよく耳にする。ネタバレの恐れがあるので詳しい説明はできない。だが、このラストは「3・11後」の心にこそ響いてくるはずだ。
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