資源・新興国通貨の2025年12月までの展望

著者:八代和也
投稿:2025/09/01 15:04

豪ドル

RBA(豪中銀)は8月11-12日の政策会合で0.25%の利下げを行うことを決定。政策金利を3.85%から3.60%へと引き下げました。ブロックRBA総裁は会合後の会見で、「さらなる利下げが必要となる可能性がある」と述べ、追加利下げを示唆しました。

RBAは25年2月・5月・8月と、3カ月ごと2会合に1回のペースで利下げを実施してきました。市場では、今後もそのペースは変わらず、11月と25年2月にそれぞれ0.25%(合計0.50%)の追加利下げが行われるとの見方が有力です。

今後の注目点はRBAの金融政策に対する市場の見方がどう変化するか。今後発表される豪州の経済指標の結果を受けてRBAによる追加利下げ観測が後退する場合、豪ドルにとってプラス材料になると考えられます。

豪ドル/米ドルはFRB(米連邦準備制度理事会)の、豪ドル/円は日銀の金融政策にも影響を受けそうです。FRBによる利下げ観測が高まる、あるいは日銀による利上げ観測が後退する場合、RBAによる追加利下げ観測が高まったとしても、豪ドル/米ドルや豪ドル/円はそれほど下落しない可能性があります。

トランプ政権の通商政策、特に対中国関税がどうなるのかにも注目です。豪州は中国を主力輸出先とするため、豪経済は中国景気の動向に影響を受けやすい面があります。米中が通商交渉で合意すれば、豪ドルを下支えする要因になりそうです。

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【豪ドル/NZドル】
豪ドル/NZドルは8月28日に一時1.11184NZドルへと上昇し、2月20日以来およそ6カ月ぶりの高値をつけました。

足もとの豪ドル/NZドル上昇の主な要因として、8月20日のRBNZ(NZ中銀)の政策会合の結果を受けてRBNZによる追加利下げ観測が市場で高まったことが挙げられます。

市場では、RBNZは0.25%の利下げをあと2回実施するとの見方が優勢です(*RBNZの金融政策の詳細はNZドルの項をご参照ください)。一方でRBAも0.25%の利下げをあと2回行うと市場では予想されています。

RBAとRBNZの金融政策に対する市場の見方を踏まえれば、豪ドル/NZドルは次第に上値が重くなると考えられます。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は8月20日の政策会合で0.25%の利下げを行うことを決定。政策金利を3.25%から3.00%へと引き下げました。

ただこの会合では、より大幅な0.50%の利下げを行うことも検討されました。また、政策メンバーの意見が割れて投票が実施されて、4人は0.25%の利下げに賛成し、2人は0.50%の利下げを支持しました。四半期に一度公表されるRBNZの政策金利見通しでは、今回の利下げサイクルの最終到達点が5月時点の2.85%から2.55%へと下方修正されました。8月会合の利下げによってRBNZの政策金利は3.00%になったため、仮に1回の利下げ幅を0.25%とすると、RBNZはあと2回の利下げを想定していると解釈できます。

市場では、RBNZは10月と11月の会合でそれぞれ0.25%の追加利下げを実施し、それをもって24年8月に開始された利下げサイクルは終了との見方が優勢です。今後発表されるNZの経済指標でRBNZの利下げサイクル終了が現実味を帯びれば、NZドルは対円や対米ドルで持ち直す可能性があります。

NZは豪州と同様、中国を主力輸出先とします。米国と中国の通商交渉がどうなるのかにも注目です。両国が通商交渉で合意すれば、NZドルにとってプラス材料になりそうです。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は24年6月から25年3月まで7会合連続で利下げを実施。その後4月・6月・7月の会合では政策金利を据え置きました。

BOCは金融政策運営において引き続き難しい舵取りを迫られそうです。BOCがコアインフレ指標として注視するCPI(消費者物価指数)のトリム値と中央値は、ここ数カ月間3%前後で推移しており、7月はトリム値が前年比3.0%、中央値が同3.1%でした。カナダは、輸出全体の4分の3程度が米国向けであり、トランプ政権による対カナダ関税はカナダ経済にとってマイナスです。カナダの4-6月期GDP(国内総生産)は前期比年率換算マイナス1.6%と、23年7-9月期以来のマイナス成長になりました。

市場では、BOCは今後0.25%の利下げをあと2回行うとの観測があり、そのことはカナダドルにとってマイナス材料になると考えられます。ただ、米ドル/カナダドルについては、FRBも今後利下げを複数回実施すると市場では予想されています。仮にFRBによる追加利下げ観測が市場で一段と高まる場合、米ドルが全般的に軟調に推移するかもしれません。その場合、米ドル/カナダドルはそれほど上昇しない可能性があります。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は8月7日に政策会合で0.25%の利下げを行うことを決定。政策金利を8.00%から7.75%に引き下げました。利下げは9会合連続で、24年3月以降10回目。利下げ幅は直近4会合のそれぞれ0.50%から縮小されました。

8月会合のBOM声明では「政策金利のさらなる調整を検討する」と表明され、今後さらに利下げを行う可能性が示されました。そのことはメキシコペソにとってマイナス材料になると考えられます。

ただ、BOMは24年3月以降、合計3.50%の利下げを行いました。これまでの利下げの影響は今後さらに出てくると予想されます。また、メキシコのCPI(消費者物価指数)コアの高さを踏まえると、BOMは利下げをいったん停止する可能性があります。7月のCPIは総合が前年比3.51%と、上昇率は前月の4.32%から鈍化し、BOMのインフレ目標(3%)の許容レンジ(2~4%)に戻りました。一方、コア指数は前年比4.23%と、3カ月連続で4%を上回りました。

仮に次回9月25日のBOM会合で8月と同様に0.25%の利下げが行われるとしても、BOMの声明で次々回11月以降の会合で利下げを停止する可能性が示されれば、メキシコペソにとってそれほどマイナス材料にならないかもしれません。

メキシコペソはトランプ政権による通商政策にも影響を受ける可能性があります。トランプ政権はメキシコからの輸入品に対し、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)準拠品を除いて原則25%の関税を3月から課しています。メキシコに対する関税率は8月1日から30%へと引き上げられる予定でしたが、90日間延期されました。今後、関税引き上げの猶予期限がさらに延長される、あるいは関税の引き上げが撤回されれば、メキシコペソにとってプラス材料になりそうです。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想