資源・新興国通貨の2026年3月までの展望

著者:八代和也
投稿:2025/09/29 15:04

豪ドル

RBA(豪中銀)は25年2月・5月・8月と3カ月ごと2会合に1回のペースで利下げを実施。9月26日時点の政策金利は3.60%です。

次回9月29-30日のRBA会合については、政策金利は据え置かれると予想されます。市場では11月以降、0.25%の利下げが1回ないし2回行われるとの観測があります。声明や総裁会見を受け、RBAによる追加利下げ観測が高まる場合、豪ドルにとってのマイナス材料になりそうです。

豪ドル/米ドルについてはFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策にも影響を受けると考えられます。FRBによる積極的な利下げ観測が市場で高まる場合、RBAの追加利下げ観測が高まったとしても、豪ドル/米ドルはそれほど下落しない可能性があります。

日銀はいずれも追加利上げを行うと考えられます。ただ、実際に追加利上げが実施されたとしても、その次の利上げ観測が市場で高まらなければ、豪ドル/米ドルと同じく豪ドル/円はそれほど下落しないかもしれません。

トランプ政権の通商政策、特に対中国関税がどうなるのかにも注目です。豪州は中国を主力輸出先とするため、豪経済は中国景気の動向に影響を受けやすい面があります。米中の貿易摩擦が緩和する場合、豪ドルにとってのプラス材料になりそうです。

***
【豪ドル/NZドル】
豪ドル/NZドルは9月25日に一時1.13466NZドルへと上昇し、22年10月以来の高値をつけました。RBAによる早期利下げ観測が後退する一方で、RBNZ(NZ中銀)による積極的な利下げ観測が浮上し、それらが豪ドル/NZドルの上昇要因となりました。

市場では今後の追加利下げについて、RBAは1回か2回実施するとの観測があり、RBNZは3回行うとの見方が優勢です。RBAとRBNZの金融政策面からみれば、豪ドル/NZドルは引き続き底堅く推移するかもしれません。

豪ドル/NZドルが下落基調に転じるケースとして、RBAの追加利下げ観測が高まるか、RBNZの追加利下げ観測が後退する(あるいは両方)ことが考えられます。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は8月の金融政策報告で、政策金利は26年1-3月期に2.55%へと低下してそれをもって今回の利下げサイクルは終了するとの見通しを示しました。8月の利下げによってRBNZの政策金利は3.00%になったため、RBNZはあと0.50%の利下げを想定していると解釈できます。

一方、市場ではRBNZによる追加利下げ観測が高まっています。9月18日に発表されたNZの4-6月期GDP(国内総生産)が前期比マイナス0.9%と、RBNZの8月時点の見通しであるマイナス0.3%を大きく下振れたからです。OIS(翌日物金利スワップ)によると、RBNZは今後0.25%×3回の追加利下げを行うとの見方が市場では優勢。NZのGDP発表前は0.25%×2回の利下げでした。

市場が予想するどおりに今後RBNZが追加利下げを行うようなら、NZドルが軟調に推移しそう。ただし、NZドル/米ドルに関してはFRBが利下げを続ける場合には下げ渋る可能性もあります。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は24年6月から25年3月まで7会合連続で利下げを実施。その後4月・6月・7月の会合では政策金利を据え置いたものの、9月の会合で再び0.25%の利下げを行いました。9月26日時点の政策金利は2.50%です。

BOCは声明で9月会合の利下げについて「(カナダ)経済が減速し、インフレの上振れリスクが低下していることから、今後のリスクをより均衡させるため」と説明。マックレム総裁は会合後の会見で「リスクが一段と傾く場合、さらに行動する用意がある」と述べ、追加利下げに含みを持たせました。

ただ、BOCによる追加利下げの余地はそれほどないかもしれません。24年6月以降の利下げによってBOCの政策金利の水準は、BOCが推計する中立金利(2.25~3.25%)の下限に近づいています。また、これまで実施された利下げの影響は今後さらに出てくると考えられます。市場では、BOCは0.25%の追加利下げを1回行ってそれをもって利下げサイクル終了との見方が優勢です。

FRBは今後複数回の利下げを行うと予想されます。FRBとBOCの金融政策面からみれば、米ドル/カナダドルは軟調に推移する可能性があります。

日銀は早ければ25年中に追加利上げを実施するとみられるものの、その次の利上げはかなり先になると考えられます。そのとおりになれば、カナダドル/円はそれほど下落しないかもしれません。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は7月と9月の2会合連続で利下げを実施。利下げ幅は7月が3.00%、9月が2.50%で、9月26日時点の政策金利は40.50%です。

TCMBの9月会合の声明で、「(トルコの)4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は予想を上回ったものの、国内の最終需要は依然として弱い」、「最近のデータは、需要状況がディスインフレの水準にあることを示している」と指摘。「中期目標(※)に沿って予想されるディスインフレの道筋に必要な引き締め度合いを確保するように政策金利を決定する」とし、7月会合と同じく「インフレ見通しに重点を置きつつ、(政策金利の)変更幅を会合ごとに慎重に見直す」と表明しました。

(※)TCMBは8月14日、インフレ率についての中期目標を発表。インフレ率(CPI上昇率)を25年末までに24%、26年末までに16%、27年末までに9%へと低下させることを目指すとしました。

トルコのCPI(消費者物価指数)は24年5月の前年比75.45%をピークに上昇率が鈍化しており、25年8月の上昇率は32.95%でした。CPI上昇率の鈍化が続けば、TCMBは今後さらに利下げを行うと考えられます。その場合、トルコリラにとってのマイナス材料になりそうです。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は24年9月から25年7月まで5回合計1.25%の利下げを行いました。25年9月の政策会合では政策金利を7.00%に据え置いたもののその決定は4対2で、決定に反対した2人は0.25%の利下げを主張しました。

南アフリカの8月CPI(消費者物価指数)は前年比3.3%と、SARBの3~6%のインフレ目標に引き続き収まったものの、目標中間値の4.5%は13カ月連続で下回りました。SARBは今後追加利下げを行う可能性があり、その場合には南アフリカランドは軟調に推移しそうです。

SARBはインフレ目標を現行の3~6%のレンジから3%へと変更する意向を示しています。財務省はまだ承認していないようですが、仮にインフレ目標がそのとおりに変更されれば、SARBが追加利下げを行う確率は変更前と比べて低下するかもしれません。

トランプ政権による対南アフリカ関税がどうなるのかにも注目です。トランプ政権は8月、南アフリカに対して30%(基本税率10%+上乗せ分20%)の相互関税を発動しました。南アフリカのラマポーザ大統領は9月23日、関税率の引き下げを目指して米国と協議中だと語りました。仮に対南アフリカ関税が引き下げられれば、南アフリカランドにとってのプラス材料になると考えられます。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は24年3月に利下げを開始し、25年9月まで11回合計3.75%の利下げを実施。9月26日時点の政策金利は7.50%です。25年9月会合のBOM声明では、8月会合と同じく「政策金利のさらなる調整を検討する」と表明されました。次回11月6日の会合でも利下げが行われる可能性がありそうです。

一方でこれまでのBOMによる大幅利下げの影響は今後さらに出てくると考えられます。また、メキシコのCPI(消費者物価指数)で食品・エネルギー・農畜産物を除いたコアは、8月まで4カ月連続でBOMのインフレ目標(3%)の許容レンジ(2~4%)を上回りました。BOMの利下げサイクルは停止時期が近づきつつあるかもしれません。仮に次回11月会合で利下げが行われるとしても、その後の会合で利下げが停止される可能性が市場で意識されれば、メキシコペソはそれほど下落しない可能性があります。

トランプ政権による通商政策にも注目です。トランプ政権はメキシコからの輸入品に対し、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)準拠品を除いて原則25%の関税を3月から課しています。対メキシコ関税の税率は8月1日から30%へと引き上げられる予定でしたが、交渉時間を確保するためとして90日間の延期中です。関税の引き上げがさらに延期される、あるいは米国とメキシコが通商交渉で合意して関税の引き上げが撤回される場合、メキシコペソにとってプラス材料になりそうです。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想